広田の方法(ひろたのほうほう、英: Hirota's method)は、ソリトン方程式のソリトン解を求めるための方法の一つで、簡便にして強力なことで知られる。広田良吾が考案した。双線形化法 (bilinearization method)、直接法 (direct method) とも呼ばれる。

Log微分などによる従属変数の変数変換により、非線形偏微差分方程式を双線形方程式に変換する。変換後の従属変数はしばしば τ 関数と呼ばれる。τ 関数は行列式またはパフィアン (Pfaffian) で、双線形方程式はPlucker関係式である。

ソリトン方程式の可積分性を保ったまま方程式の独立変数を離散化する際にも重要な役割を果たしている。

広田微分

定義

二つの関数の組 f(x, t), g(x, t) に対して、

D x m D t n f g = ( x x ) m ( t t ) n f ( x , t ) g ( x , t ) | x = x , t = t {\displaystyle D_{x}{}^{m}D_{t}{}^{n}f\cdot g=\left.{\biggl (}{\frac {\partial }{\partial x}}-{\frac {\partial }{\partial x'}}{\biggr )}^{m}{\biggl (}{\frac {\partial }{\partial t}}-{\frac {\partial }{\partial t'}}{\biggr )}^{n}f(x,t)g(x',t')\right|_{x'=x,t'=t}}

で定義される二項演算を広田微分と呼ぶ。演算子 Dx, Dt広田のD演算子と呼ぶ。

実際の広田微分の計算例は次のようになる。

  • D x f g = f x g f g x {\displaystyle D_{x}f\cdot g=f_{x}g-fg_{x}}
  • D x 2 f g = f x x g 2 f x g x f g x x {\displaystyle D_{x}^{\,2}f\cdot g=f_{xx}g-2f_{x}g_{x} fg_{xx}}
  • D x 3 f g = f x x x g 3 f x x g x 3 f x g x x f g x x x {\displaystyle D_{x}^{\,3}f\cdot g=f_{xxx}g-3f_{xx}g_{x} 3f_{x}g_{xx}-fg_{xxx}}
  • D x 4 f g = f x x x x g 4 f x x x g x 6 f x x g x x 4 f x g x x x f g x x x x {\displaystyle D_{x}^{\,4}f\cdot g=f_{xxxx}g-4f_{xxx}g_{x} 6f_{xx}g_{xx}-4f_{x}g_{xxx} fg_{xxxx}}
  • D x D t f g = f t x g f t g x f x g t f g t x {\displaystyle D_{x}D_{t}f\cdot g=f_{tx}g-f_{t}g_{x}-f_{x}g_{t} fg_{tx}}

双線形形式

二つの関数の組に、広田微分を作用させた場合、各項は二つの関数の導関数について、どちらも一次式の形になっており、これを双線形形式 (bilinear form) と呼ぶ。可積分系の非線形偏微分方程式は、適当な従属変数の変換の下、双線形形式の広田微分の方程式に変形できる。シンプルな形に表現された双線形形式の方程式に、広田微分の性質を組み合わせることで、見通しのよい計算で解を構成することが可能となる。

広田の方法

広田の方法では、可積分系の非線形偏微分方程式に対し、対数微分などの従属変数の変換を行った後、広田微分を用いて、双線形形式の微分方程式に帰着させる。さらに双線形形式の微分方程式を、べき級数の形式で展開し、各べき乗のオーダーを満たす関数形を定めていくことで解を構成する。逆散乱法では、非線形偏微分方程式をシュレディンガー方程式の散乱問題に帰着させ、散乱データから元の非線形偏微分方程式の解に対応するポテンシャル関数を構成するという数学的技巧を要するが、広田の方法では直接的なアプローチで元の方程式を解くことができ、簡便性が高い。

KdV方程式の例

可積分系の代表的な例であるKdV方程式で、広田の方法を説明する。KdV方程式

u t 6 u u x u x x x = 0 {\displaystyle u_{t} 6uu_{x} u_{xxx}=0\,}

において、

u = 2 2 x 2 log f {\displaystyle u=2{\frac {\partial ^{2}}{\partial x^{2}}}\log {f}\,}

なる変数変換をすると、

D x ( D t D x 3 ) f f = 0 {\displaystyle D_{x}(D_{t} D_{x}^{\,3})f\cdot f=0}

なる双線形形式の方程式に帰着される。ここで f を

f = 1 ϵ f 1 ϵ 2 f 2 {\displaystyle f=1 \epsilon f_{1} \epsilon ^{2}f_{2} \cdots \,}

と ε によるべき級数で展開する。これを双線形形式の方程式に代入し、各べき εn のオーダー毎にまとめると、

ϵ : D x ( D t D x 3 ) ( f 1 1 1 f 1 ) = 0 {\displaystyle \epsilon :\,\,D_{x}(D_{t} D_{x}^{\,3})(f_{1}\cdot 1 1\cdot f_{1})=0}
ϵ 2 : D x ( D t D x 3 ) ( f 2 1 f 1 f 1 1 f 2 ) = 0 {\displaystyle \epsilon ^{2}:\,\,D_{x}(D_{t} D_{x}^{\,3})(f_{2}\cdot 1 f_{1}\cdot f_{1} 1\cdot f_{2})=0}
ϵ 3 : D x ( D t D x 3 ) ( f 3 1 f 2 f 1 f 1 f 2 1 f 3 ) = 0 {\displaystyle \epsilon ^{3}:\,\,D_{x}(D_{t} D_{x}^{\,3})(f_{3}\cdot 1 f_{2}\cdot f_{1} f_{1}\cdot f_{2} 1\cdot f_{3})=0}
{\displaystyle \vdots }

となる。

1ソリトン解

1ソリトン解を構成するには次のような解の構成を行う。まず、

f 1 = e 2 ( κ x ω t ) {\displaystyle f_{1}=e^{2(\kappa x-\omega t)}\,}

として、ε1 の項を考えると

ω = 4 κ 3 {\displaystyle \omega =4\kappa ^{3}\,}

の関係が満される必要があることがわかる。また、高次の εn の項については、特解として、

f n = 0 n 2 {\displaystyle f_{n}=0\quad n\geq 2}

をとることができる。よって、解 u としては

u = 2 2 x 2 log ( 1 e 2 ( κ x 4 κ 3 t ) ) {\displaystyle u=2{\frac {\partial ^{2}}{\partial x^{2}}}\log {(1 e^{2(\kappa x-4\kappa ^{3}t)})}}

となる。

参考文献

  • R. Hirota, Phy. Rev. Lett., 27, p. 1192, 1971. doi:10.1103/PhysRevLett.27.1192
  • 広田良吾, "直接法によるソリトンの数理", 岩波書店, 1992年, ISBN 978-4000056762

関連事項

  • ソリトン
  • 無限次元Grassmann多様体
  • Plucker関係式
  • 行列式
  • パフィアン
  • 可積分アルゴリズム#可積分差分スキーム

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